日本を代表する推理小説家の島田荘司氏。彼が生み出した御手洗探偵が、スクリーンで大活躍しました。今回は『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』を、紹介していきます。
犯人の名前も包み隠さずネタバレしますので、そういう方面も楽しみたい方はこれより下は見ないようにお願いいたします。
探偵ミタライの事件簿 星籠の海のあらすじ
4月27日深夜。大雨の広島県福山市から、物語は始まります。
竜神の滝近くの山林を、警察は調査していました。
すると、滝の中から、謎の声が聞こえてきたので、不審に思った警察が滝つぼに向かいます。
滝つぼでは、男女が2本の柱に縛られて、水死体として発見されました。ひどくショッキングな光景です。
しかも女性は口を、男性は目を縫われており、近くには赤ん坊の死体まである始末。
おどろおどろしい現場から場面が変わり、大学の講義室。
物語の主人公で脳科学者の御手洗潔と、女流編集者の小川みゆきがここで登場します。
御手洗は警察もてこずる難事件をこれまでにいくつも解決しており、そして解決した事件を小川が担当小説家の石岡が書籍化するという、持ちつ持たれつの関係を築いているのです。
今回、小川は新しい作品作りのきっかけが欲しいため、ネットで調べた怪しげな未解決事件を御手洗に解決するよう打診に来ていたのでした。
御手洗は「死体島」と書かれた事件に興味を持ち、急いで現場に向かいます。
4月28日
4月28日の午前、愛媛県松山市興居島の砂浜。
御手洗と小川はさっそく警察に聞き込みに向かうと、なんとこの砂浜では半年で6人もの遺体(すべて男性)が漂着するようです。死体はボロボロで、死因も身元も確認出来ていません。
しかし、御手洗はあっさりとこの怪奇現象の答えを導き出します。
そして、試験場に移動し、瀬戸内海の特殊な地形が海流に影響を与え、6時間周期でまったく同じ流れをしていることを証明するのです。
さらに、これまで流れてきた遺体は6体全員、福山から流れてきたことも突き止めます。翌日、御手洗たちは急ぎ福山へ向かいます。
新たな事件
福山駅にて、事件を担当している刑事黒田に話を聞く御手洗。
しかし、そんな折にアパートで女性の変死体が見つかるという事件が舞い込みます。以前から外国人らしき人物が出入りしていたらしく、また被害者も外国人でした。
その女性宅には前から外国風の人間が出入りする家で、死んだ女性も外国人のようである。遺体には特別な外傷や痕跡は見られませんでしたが、足の指の間に覚醒剤の痕がありました。
何かを察した御手洗は一計を案じ、パトカーを返すように指示。警官に現場で待ち伏せするように指示します。
すると、5分後に謎の黒い車から4人の男が、遺体を回収しようとアパートにやってきました。御手洗の読みは見事に的中し、4人全員があえなく御用となりますが、全員黙秘権を貫いてしまいます。おそらく家族が質に取られているのだろうと御手洗は推察。黒田に告げます。
この時の黒田との会話がきっかけで、冒頭の龍神の滝の変死体と話が繋がっていきます。実は、赤ん坊は首の骨を折られて死んでしまいましたが、例の水死体2人は死んでおらず、現在病院で入院していたのです。
御手洗は、夫婦が発見された時の状況をまとめると、『罰』という字が見立てられていたことに気付きます。
居比夫婦は仕事で多忙だったため、辰巳洋子というベビーシッターを雇っていました。彼女も事件に巻き込まれていましたが、幸いにも軽症。御手洗は居比の夫に事件当日の話を伺います。
遡ること24日。帰宅した夫婦が、洋子がテーブルに縛り付けられ腹を刺されていたのを見つけます。子供はすでに誘拐された後。犯人からの脅迫状には『25日19時・神社に2000万円を持って来い』と書かれていました。警察に連絡すれば子供の命はないでしょう。また、洋子を病院が不審がられてはまずいため、洋子は作業中の事故として入院させます。
その夜、犯人は金策巡りに時間がかかるだろうからと、指定日を一日ずらし、受取時刻も22時に変更。そして、受渡日に神社に金を持っていくと何者かに襲われ、目を縫われていたとの事でした。
一通りの話を聞いてから、御手洗は洋子が刺されていた件について、いくつか不自然なことに気が付きます。刺された際に血やお茶が垂れた場所。実際に訪れた現場で発見された抱っこひもや、ごみ箱に捨ててある手袋や2つのラップの芯……いくつかの状況から御手洗は洋子は実は自作自演という可能性を指摘したのです。そして、それも踏まえて洋子に兄弟、あるいは恋人がいるかを黒田に調べさせました。
きな臭い被害者
御手洗と黒田が食事をしていると、地元漁師が海で首長竜のような生物「水竜」にあったという話をしていました。福山近海で最近、頻繁に目撃されているとか。御手洗はこの話が引っ掛かりました。
それから数日後。捜査が進んできたころに、御手洗は居比家の事件について、2点の違和感を指摘します。
1つは、被害者の洋子は内臓にまったく傷がついていなかったこと。もう1つは、犯人が電話で脅迫状を復唱させたことでした。
そして、渦中の人物である辰見洋子には弟や、小坂井准一という恋人がいることが判明します。2人とも、事件当夜は洋子に会っていないと主張。弟については、アリバイもしっかりしています。
そんなとき、新たな事件が発生します。滝沢加奈子という女性が、東南アジア人を歩道から突き落としたのです。
走っていた車のフロントガラスに、道路の歩道橋から東南アジア人の男が落ちてきたという事件が発生した。
彼女は突然被害者の男性に襲われ、もみ合いになったところを弾みで突き落としてしまったとのこと。状況が状況ですので、正当防衛としておとがめなしになりました。
加奈子は福山市立大学で准教授をしていました。研究内容は、福山藩主・阿部正弘の古文書にある星籠の謎について。この話を調べ始めてから、他人に襲われるようになったと主張しています。
星籠の正体は〇〇だった!
一方、御手洗たちは滝沢の案内で鞆の浦にいました。星龍についての情報を調べていたのです。すると、こんな逸話が効けました。
戦国時代、芸予諸島は福山藩のお膝元。村上海軍が猛威を振るっていたのです。
しかし、1度は戦に負けた織田信長ですが、鉄鋼をはり無敵の船をこしらえて村上水軍に再選を挑んだのです。当時の船は大半が木造だったので、村上水軍はあえなく敗戦。
ところが、この話に登場している鉄鋼船は、本能寺の変以降、どこにも発見されていないという逸話です。
しばらく案内をしていると、偶然現れたのは滝沢の友人であり西京化学工業の社長の槙田。彼は文化センターで福山の歴史を展示するにあたって、滝沢に協力を求めていたのです。
槙田の隣にいた小坂井は、腕を怪我していました。スクーターで転んだそうですが、どうにも怪しいです。
その後、滝沢は面白い事実に気付きます。
村上海軍の次に力を誇っていた忽那水軍。信長の星籠が発見されていないのは、彼らが沈めたのでは無いかと御手洗は考えます。
さらなる聞き込みで、江戸時代に黒船対策のため忽那水軍の末裔により星籠は幕府に献上されていると言うことが判明。ここで驚きの新事実が明らかになります。星龍を守っていた一族の末裔は、いまは潰れてしまった小さな造船場を営んでいました。その生き残りである1人息子の名は……小坂井。
誘拐事件の真相
小坂井の自宅を訪れた御手洗は、星籠の正体はずばり「潜水艇」であると断定。信長の鉄鋼船は、潜水艦だからこそギリギリまで近づいて、爆破できたのです。その戦術が黒船にも使えると考えられ、幕府に献上することになったのです。
さて、星籠について話を終えると、今度は事件の話。小酒井の恋人である洋子が、殺人と誘拐の容疑で疑われていることをカミングアウトします。
また、ここで御手洗は「手袋の裏側から指紋が発見されれば決まりだが、それが見つからない」とカマを駆けます。
その後警察に行くと、黒田は居比についていろいろなことを調べ上げていました。
20年前。当時大学生だった彼は、20年前に西京化学工業の工場建設に反対運動をしていました。また、この際に1人死人も出たとか。
これが原因で工場計画はおじゃんになり、当時の西京側の責任者が自殺。その妻も、後を追うように半年後に心労で死去。鋸田子供は親せきをたらいまわしにされて、中卒後は行方不明。どこかで聞いたような話です。
その後、御手洗と黒田は事件のあったマンションを訪れると、読み通り小酒井が手袋を始末しようとしていました。観念した小酒井は、以下のように自供します。
「事件当日、洋子に呼び出されマンションを訪れると、すでに洋子は刺されていた。洋子いわく、『犯人は洋子の元カレ。怪しい薬を押し付けられてしまい、警察に疑われたら看護学校へ通えなくなってしまう。変質者に襲われたように偽装工作をしてほしい』とのこと。
その後、消毒成分のある緑茶を利用して応急処置を行った後、件の薬が入ったカバンを現場から持ち去ったが、道中で外国人の車と接触しバイクが転倒したと言います。
さらに小坂井はこの件を槙田に相談していました。実は彼と小坂井は、兄弟のような深い交友関係にあったのです。
しかし、まだ謎が解けていないことがあります。赤ん坊の件です。これを調べるため、御手洗たちは洋子の病室へと向かいます。
探偵ミタライの事件簿 星籠の海の黒幕は?
病室で、洋子はすべてを自供しました。
実は、あの日洋子は赤ん坊を事故死させていたのです。洋子と居比の妻の対格差が原因で抱っこひもが不完全だったせいで、赤ん坊を落としてしまっていたのでした。大慌てで赤ん坊をラップでくるみ、小坂井に前述した「元カレに襲われた」というでっち上げを吹き込み、騙したのです。小坂井の運んでいた『薬が入ったカバン』は、実際には赤ん坊の死体が入っていたのです!
さらに帰宅した居比夫婦には誘拐事件が起きたことにして、最終的には神社での取引に失敗させて迷宮入りさせるつもりだったのでした。
ところが、彼女の計画は、あらゆる不幸が重なって破綻してしまったのです。
槙田は外国人労働者を利用して危険ドラッグ工場を経営していたのですが、それがバレたと勘違い。結果的に滝沢先生は襲撃されたり、ドラッグの過剰摂取で死亡した謎の外国人女性が登場してしまいます。しかも、彼女以外に危険ドラッグで死んだ人間は福山から流され、それが死体島に流れ着いたのが、怪奇現象の真相でした。
そして、居比夫婦を襲撃した犯人も、槙田でした。居比が原因で両親が死んだと怨んでいた槙田は、常時夫婦を監視していたのです。
そこに来て、洋子による赤ん坊転落事件。槙田はこれに目を付けました。
手下に小坂井のバイクを事故らせ、赤ん坊が入ったカバンを盗み、居比夫婦に電話。
この時点で槙田は洋子がでっち上げた脅迫状の内容を知らなかったので、夫婦に復唱させることで取引場所を把握。その後、約束を変更させて、取引現場に現れた夫婦を襲撃したのです。
探偵ミタライの事件簿 星籠の海のラスト結末
真相が明らかになり、あとは槙田を逮捕するのみ。ところが、肝心の槙田は見つかりません。
貨物船で福山港を出ており、このままでは国外逃亡されてしまうかもしれない。そんな状況下で、槙田を止められそうな人間が1人だけいました。小坂井です。
大型船に乗って逃げる槙田と、小型船で追跡する御手洗。ここで、まさかの星籠が参戦しました。操縦者はもちろん小坂井です。槙田の乗る貨物船に体当たり(小坂井は直前で脱出)し、星籠は爆発。船も止まり、槙田はもう逃げられません。
猟師達の間で噂になっていた「首長竜」の正体は、ひそかに動かしていた星籠だったのです!
すべてが終わり、小坂井は星籠について打ち明けました。「完成前に開発者の父親が死んだだめ、自分が試運転をしていた。瀬戸内海は、海の底にはまだ珊瑚が眠っている場所があり、その珊瑚は星の籠のように見える」と。
こうして、すべての謎は解決し、事件はようやく終わりを迎えたのでした。
探偵ミタライの事件簿 星籠の海の感想
本人とは無関係の事件の人物を共犯者に仕立て上げ、犯罪を行う非常にち密ながらも大胆なトリックが光る作品でした。星籠関連の設定はやや突飛ですが、エンタメとしては盛り上がるし、最低限のリアリティもあります。
フィクション特有の非現実的な兵器と、生々しい人間の復讐劇がうまくかみ合った作品と言えますね!