人気監督クエンティン・タランティーノの待望の新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が8月30日から公開されています。
監督はこの脚本に5年の歳月を費やし、過去8作品の集大成であると相当な自信を持っているようです。
1960年代、ハリウッド黄金期の最後の瞬間を演じるのに、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという、現代ハリウッドの二大スター初共演!というビッグサプライズをもってきました。
今回のミューズ、マーゴット・ロビーは、シャロン・テートという実在した将来有望な、若く美しい女優を瑞々しく演じています。
当時のハリウッドをCGではなく見事に再現した、実在とフィクションのキャラクターが入り混じったユニークなこの作品の、衝撃のラストシーンを中心にネタバレしていきます。
大まかなあらすじ
かつてテレビの西部劇で名をはせたリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は、今では単発の仕事でなんとか食いつないでいる有り様でした。長年の相棒クリフ・ブース(ブラッド・ピット)はリックのスタントマンであり運転手であり、親友でもありましたが、この頃は仕事を回してやる余裕もありません。
クリフは、暇を持て余したある日、街でよく見かけるヒッチハイカーのヒッピー娘を、仲間と暮らすというスパーン牧場まで送り届けます。この場所と所有者を知っていたクリフは、怪しい予感を覚えます。
再起にかけたい二人ですが、歯車はなかなかうまく回りません。(この二人はフィクションです)。
リックの見栄の象徴であるシエロ・ドライブにある自宅の隣に最近越してきたのは、ヨーロッパから招かれた新進気鋭の映画監督ロマン・ポランスキーと新妻のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)です。(この二人は実在です)。
落ちぶれつつある二人組と、輝きを放ち始めたばかりの夫婦。
そして1969年8月9日、彼らの人生を巻き込み、映画史までも塗り替えてしまうような事件が起こります。
詳しいあらすじは、こちらを見てみてください。
ラストシーンのネタバレ結末
半年後、リックとクリフはイタリアでマカロニ・ウエスタンの映画に出て、ほどほどのお金を手にして帰国しました。それでもリックは豪邸を維持することと、クリフを雇い続けることをもう諦めます。
二人にとって最後の夜・・・
リック宅にマンソン・ファミリーが現れます。暴言を浴びせ追い返したリックを見て、「彼は俳優で、俳優は映画やドラマで人を殺せと教えてきた。今こそ私たちがそれを実践して彼らを殺すべき」とかなんとか。勝手な持論と武器を手に舞い戻ります。
LSDでハイになったクリフが彼らを迎えます。
ここからは直視できないほどの惨劇が続きます。しかし、「人を殺してみたい」くらいの小娘たちが実際に人を殺したことのある(という噂の)クリフにはかないませんでした。元の顔がわからないほど乱打されたり、火炎放射器で丸焦げに焼かれたり(これはリックによる)。
まさに地獄絵図です。(タランティーノからのお仕置きです)。
少々けがをしたクリフは救急車で去ります。
リックは、「何があったんですか?」と声をかけられ、お隣りへ。シャロンに自宅に招かれて、嬉しそうに見えました。めでたし、めでたし。
タランティーノ監督の想い
昔むかし、恋も仕事もまさにこれから、若く美しいシャロン・テートという女優がいました。結婚し妊娠8か月目、幸せ絶頂の彼女はなぜ惨殺されたのでしょうか。
純粋無垢なシャロンは、カルト集団による殺人のシンボルのように記憶されています。
事件直後は、シャロンの麻薬がらみだとの誤報が飛び交い、責められるような報道もありました。
タランティーノ監督は独自に調べ上げました。そして大きく誤解されたこの事件をこの映画に含めることで、シャロン似の女優の力を借りて、映画という魔法を使って、シャロンの呪いを解いたのです。
1960年代はカウンターカルチャーの時代で、これまでのあらゆる価値観に当時の若者たちが反発し始めました。男性も髪を伸ばし、堅苦しい生き方からドロップアウトし、自由を愛するヒッピーと呼ばれる人々がカリフォルニアを中心に増えました。
激化するベトナム戦争への批判も増え、ラブ&ピースをスローガンにした反戦運動も高まりました。
そして、チャールズ・マンソンが作り上げたマンソン・ファミリーは、いつの間にか殺人カルト集団に姿を変えていました。彼らの見当違いな妄想の被害者がシャロンでした。
このときハリウッドの映画産業も上手にこの流れに乗ることができず、経営難に陥っています。あがき続けるリックがそれを体現しています。そして現在も、映画界には変化の時代がやってきています。何が残り、何が使い捨てられていくのか。
この映画は、CGを嫌いあくまでもセットにこだわり、B級映画を愛するタランティーノ監督が作った映画へのラブストーリーでもありました。
感想
こうして改めて考察してみると実に深い映画でした。シャロンを被害者ではなく、いたって普通の可愛らしいひとりの幸せな女性として描いてくれてありがとうって思いました。彼女はこの物語の光ですね。
映画愛にあふれるタランティーノ監督の作品はいつも非常にマニアックで、奥が深いです。本作のように、グロテスクで残酷な描写も少なくありません。好きか嫌いかはっきりとわかりやすい作品が多いかなと思います
本作に関していえば、衝撃的すぎるラストシーンは悪者への制裁ですから仕方ありませんね。