美しきWレイチェルによる、大胆なレズビアンの映画かと思わされます。しかし、超正統派ユダヤ・コミュニティが舞台の”自由”をテーマとした物語でした。
自分の人生を自由に生きられない女性たちの抵抗であり、従順さであると共に、愛する女性の選択を受け入れようとする男の勇気の物語でもあります。
当たり前に与えられている”自由”について考えさせられます。
ロニートとエスティのネタバレあらすじ
ラビが説教の途中で倒れて亡くなりました。その最後の説教は「人間は生き物の中で唯一、自由意思を持つのです」というものでした。
ラビの娘ロニート(レイチェル・ワイズ)はニューヨークでカメラマンとして活躍していました。ロニートは十数年前に信仰を捨て、故郷を飛び出し、父子の縁を切られていましたが、訃報を受け、故郷イギリスのユダヤ・コミュニティに帰ることにしました。
ロニートにとって父の死はあまりに突然で、心のうちは激しく動揺していました。
ロニートの不意の帰郷にコミュニティの人々の視線は冷たく、幼なじみのドヴィッド(アレッサンドロ・ニヴォラ)も驚きを隠せません。
ドヴィッドはラビに息子のようにかわいがられ、後継者として育てられていました。ロニートが不在の間に結婚していて、その相手はエスティ(レイチェル・マクアダムス)でした。
三人は幼なじみで親友でした。しかしロニートとエスティはいつしか惹かれ合い、ユダヤ教超正統派の掟に抗って関係を重ね、ラビに知られ、引き裂かれたという過去がありました。
そしてロニートはコミュニティを出て、残されたエスティはラビの勧めでドヴィッドと結婚したのでした。
二人から自分たちの家に泊まるようにと言われそうしますが、ぎこちない空気が流れています。
ロニートが父の家は売りたいと言うと、遺産はすべてシナゴーグ(ユダヤ教会)に寄付されたと聞かされます。父はやはり最後まで自分を許さなかったのだと、ロニートは悲しみます。
街でばったり会ったロニートとエスティは、二人でラビの家を訪れます。そこでエスティから語られた真実は、ラビの死を伝えたのは自分で、それはもう一度会いたかったから、ロニートが去ってからは精神を病んでいたこと、ドヴィッドとの間には尊敬という感情しかないということでした。
エスティは変わらずロニートを愛していましたが、信仰まで捨てることができず、コミュニティの中で生きていくために結婚し、かつらをつけ、女子校で教師をし、ドヴィッドの子を授かりたいと願っていました。
しかしエスティは感情を抑えることができなくなり、「もうどこへも行かないでほしい」と訴えます。堰を切ったようにお互いを求める二人。
狭く閉ざされたコミュニティでは、二人の噂は瞬く間に広まってしまいます。勤務先の学校にもドヴィッドにも知られ葛藤するエスティを、ロニートが外の世界に連れだします。束の間、誰にも邪魔されずに、昔のような時間を過ごした二人。
ニューヨークでのロニートをいつも想像していたというエスティ。自由とはいえ孤独だったロニート。自分の心に正直になった二人(解放感が二人をより美しく見せます)。
ロニートはエスティの写真をたくさん撮ります。
エスティはもういままでのようにドヴィッドと向き合えません。「また傷つきたいのか」と言われ、「これが本当の私なの。ずっと彼女を求めていたの」と初めて夫にすべてをぶつけます。
ロニートはニューヨークに帰ると言いだしました(気持ちを確認し合った二人でしたが、やはり現実的に考えるとエスティには躊躇があり、ロニートは少し苛立ったのかもしれません)。
しかし空港にいるロニートの元に、エスティがいなくなったと連絡が入ります。ドヴィッドとロニートは思いつく場所を探します。
そのころエスティは、ロニートと愛し合ったホテルで、妊娠検査薬で妊娠していることを確かめ、ひとり、これからの人生をじっくりと考えていました。
そして家に帰り、夫に妊娠を伝えながらも「私を自由にして」と別れを切りだします。ようやく子どもを授かったのに受け入れられないドヴィッドは、言葉を失い出ていきます。
彼女たちの選択は。
ロニートとエスティのラスト結末
ロニートとエスティはシナゴーグで行われるラビの追悼式に向かいます。出席しないつもりでいたロニートでしたが、やはりきちんと向き合うことにしました。
後継者となるドヴィッドが紹介されました。
用意していたスピーチが読めません。自分の言葉で話し始めます。
ラビが最後に教えてくれたのは「人間は自由に選択できる」ということでしたと。そしてエスティを見つめながら「あなたは自由だ」と言いました。自分は後継者にふさわしくないので辞退しますと言い、退席します。
追いかけるエスティに続いてロニートも外に出て、三人で抱き合います。
次の日、ロニートはニューヨークに戻ります。エスティはドヴィッドの深い愛を受け入れると決めたようです。なんだか素っ気ない別れになりました。
走りだしたタクシーを追いかけるエスティ。二人は熱いキスをして「愛してる」と言い合い、連絡を取り合うことを約束します。
空港に向かう前に、父のお墓に最後の別れを告げるロニート。
ロニートとエスティの感想
ユダヤ教超正統派では、結婚した女性は髪を剃るか短く切り、かつらをつけなくてはいけないそうです。女性を魅力的に見せる髪(地毛)は夫にしか見せてはいけないから。
肉親でも夫婦でない男女の物理的な接触は禁じられているそうです。女性は結婚して子どもを産むことが当たり前。毎週金曜日の夜は夫を受け入れることも決まっています。
愛し合う二人の女性にとって、どんなに辛い環境だったか。ロニートはラビである父に知られたことによって街を出るしかなかったわけで、本当はエスティも一緒に来てほしかったのかもしれない、エスティはロニートに去ってほしくなかった、そのとききっと二人は強引に引き裂かれたのではないかと思われます。
そのまま月日は流れ、ラビの死によって再会できたわけです。やはり二人は離れましたが、納得の上の別れだし、いつでも会える別れです。
父も娘をきちんと赦して、もう一度会いたかったと思います。それが最後の説教に表われました。
主演の二人が美しく切ないのはもちろんのこと、三角関係の夫も非常に辛い立場です。しかもラビで、がんじがらめです。が、勇気のある深い愛を見せました。
教徒としての行動が最重要視されるって、どう思いますか。