アガサ・クリスティ+ユーモアで、正統派で爽快な”フーダニット(大勢の容疑者の中から犯人を捜すミステリー)”が誕生しました。
ジェームズ・ボンドではないダニエル・クレイグ、キャプテン・アメリカではないクリス・エヴァンスが、生き生きと慣れ親しんだ役とは真逆な役を楽しんでいます。
すでに続編も決まっている探偵ブノワ・ブランのお手並み拝見です。
ナイブズ・アウトのネタバレあらすじ
世界的に有名なミステリー作家ハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)の85歳の誕生日パーティがニューヨーク郊外の彼の屋敷で開かれ、一族が集まりました。
笑顔があふれ、みな楽しそうなよい雰囲気です。
家族のほかには屋敷の家政婦のフラン(エディ・パターソン)と看護師のマルタ(アナ・デ・アルマス)も客として招かれていました。
翌朝、いつも通りにフランが朝食を届けようと部屋に入ると、ハーランは喉を掻き切って亡くなっていました。
葬儀を終え、一週間後、家族たちは屋敷に集められました。その理由は、探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)の元に匿名で依頼があり、自殺ではなく他殺を疑い、さらなる調査が始まろうとしていたからでした。
屋敷を含め、ハーランの遺産は莫大です。この遺産の行方は誰もが気になるところです。
パーティ出席者が全員容疑者です。ひとりひとり聞き取りが始まります。パーティで見せていた笑顔の裏に、それぞれの思惑や嘘、確執が明らかになっていきます。
長女のリンダ(ジェイミー・リー・カーティス)は、父の死をとても悲しんでいます(父に自社の運転資金を都合してもらっていたからでしょうか)。
リンダの夫リチャード(ドン・ジョンソン)は、義父に不倫の証拠を握られていて、リンダに正直に告白するように迫られていました。
亡くなった長男の妻ジョニ(ト二・コレット)は、娘のメグ(キャサリン・ラングフォード)の学費を二重にせしめて自分の懐に入れていたことがばれて、もうこれが最後の小切手だよと宣言されていました。
次男のウォルト(マイケル・シャノン)は父の書籍を管理するも、欲深く、意見の相違から解雇されていました。
リンダの息子ランサム(クリス・エヴァンス)は放蕩息子で、葬儀にも参列しませんでした。
ハーランの母ナナのことは、誰も年齢さえ知りません(重要証言をするキーマンです)。
お金持ち一族にありがちな、身勝手な本性がどんどん見えてきます。
そんな中たった一人、ハーラン専属看護師のマルタだけは、献身的にハーランに尽くし信頼を得ていました。仮面をかぶった家族たちともうまく付き合っていました。
マルタは特異体質で、嘘をつくと嘔吐してしまいます。ブノワの質問には嘘はつかず、真実からかいつまんでさらっと答えます。
しかし、隠している真実は・・・
パーティの夜、いつものようにハーランの部屋で囲碁をしてから投薬しますが、薬を間違えます。致死量のモルヒネを投与してしまいました。なぜか解毒剤が消えていて、このままではハーランは死んでしまいます。
パニックになりながらも救急車を呼ぼうとするマルタをハーランが止めます。「どうせ間に合わない」と。「不法滞在している母親のことがばれてしまうから、マルタが捕まるわけにはいかない」と。そしてアリバイを考え、その通りにやり遂げるようにと指示を出して、喉を掻き切ったのです。
言われたとおりに行動したマルタを疑うものは誰一人いません。
再び家族が屋敷に集められ、ハーランの遺言書の内容が明かされました。緊張からか、醜くなじり合いを始める面々。
読み上げられたすべての相続人は、マルタでした。
事態が飲み込めないまま皆に責められるマルタを救い出したのは、ランサムでした。
祖父の遺志を尊重するために協力するから、あの晩に起きたことをすべて話してほしいと言われ、マルタは隠さずに話しました。
家族たちはあの手この手で相続を放棄させようとします。母親のことを告発するとも言われました(いままではマルタに「家族だと思っている」なんて言っていたのに)。
脅迫状も届きました。そこに書かれていた住所に行ってみると、モルヒネを大量に投与されたフランの姿がありました。マルタはすぐに救急車を呼びました。
もう十分です。マルタにはこれ以上は耐えられません。みんなにすべてを話したいと、ブノワに集めてもらいました。
さぁ、どんな話し合いになるのでしょうか。
ナイブズ・アウトのラスト結末
他殺で捜査を進めていたブノワは、自殺であったと、捜査は終了だと言いました。それからランサムに向かって「なぜ私を雇ったのか」と。
黒幕はランサムでした。
パーティで口論になり、マルタに全財産を残すと言い渡されたランサムは、マルタの薬瓶の中身をこっそり入れ替えました。マルタがそのまま投与し、死に至らせる計画でした。
自殺ではマルタに遺産が渡ってしまうので、ブノワに匿名で捜査を依頼したのです。しかし実際にはマルタは薬を間違えました(だから正しく投与し、ハーランは自殺したわけなのですが)。
そして自分を疑ったフランにモルヒネを大量投与し、マルタに罪をなすりつけようとしたのでした。
そこに、フランが命を取りとめたと病院から電話が入りました。ランサムは「殺人未遂くらい、腕の立つ弁護士を雇ってすぐに出所してやる」と息巻きました。
するとマルタは堪えきれずに嘔吐します。先ほどの連絡はフランの死亡を伝えるもので、マルタは嘘をついてランサムに自供させたのでした。
怒ったランサムはオブジェからナイフと引き抜き、マルタの胸に一突きしましたが・・・それはおもちゃのナイフでした。
屋敷にひとり残ったマルタはバルコニーから、庭に集まったままの家族たちを見下ろします。
ナイブズ・アウトの感想
結末は最後の最後までわからない、はずなのに、中盤でマルタが全てを語ってしまいます。謎解き、犯人当てのミステリーとはひと味違います。
ライアン・ジョンソン監督オリジナルの優れた脚本と、マルタの人間性が傑作を生み出しました。
表面上うまく関係を築いているように見えた家族でしたが、全員がすねかじりの強欲で、善人の仮面を被っていました。それを嘆き憂いていた大金持ちの老人は、移民ながら強く生き、かつ心が純粋で優しいマルタにすべてを残しました。
ラストシーン、バルコニーから見下ろすマルタは立場が逆転したことを無言で知らしめています。
よく練られていました。もう今から続編が楽しみです。ダニエル・クレイグにまたもや当たり役ができましたね。