多くの人命を救った英雄から一転、証拠が一つもないにもかかわらず容疑者に仕立てられた主人公。
爆弾も恐ろしいですが、”メディアリンチ”なるものも相当恐ろしいです。SNSが根付いた現代、誰の身にも起こりうるテーマです。
90歳になるイーストウッド監督がまだまだ精力的に、真実に迫ります。
リチャードジュエルのネタバレあらすじ
遡ること10年ほど。
リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)とワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)が備品係と雇われ弁護士の立場で出会います。
細かいところまでよく気がつくリチャードは、ワトソンの好物がスニッカーズと当たりをつけ、引き出しに補充しておきました。それがきっかけになり何度か言葉を交わすようになっていきますが、リチャードが職場を去ることになり別れます。
リチャードは良く言えば、正義感や愛国心が人一倍強く、まじめで優しい人物です。しかしもう一歩踏み込んで言えば、警察官(=権力)への憧れが強すぎます。敬意を払う度が過ぎます。自分の職務を逸脱してしまうことがたびたびあり、仕事が長続きしません。
そして1996年。オリンピック開催中のアトランタ公園で、リチャードはコンサート会場の警備員をしています。お腹の大きな妊婦さんにはミネラルウォーターをあげるなど、やはりよく気がつきます。
その反面、大きなリュックを背負った男などには過剰に反応し追いかけたりもします。
そして、ベンチの下に置き去りにされているリュックを発見しました。
単なる落とし物ではなく不審物として扱うようにと警察に忠告します。慎重に開けてみると、中身は無数の釘が仕込まれたパイプ爆弾でした。
その場から離れるようにと皆が一斉に叫びます。現場は騒然とします。
そんな中、爆発は起こってしまいました。2名が亡くなり、100名以上が負傷しました。大惨事ですが、それでもリチャードが事前に発見できていなかったら、もっとけた外れの死傷者数だったことでしょう。
翌日から、第一発見者のリチャードは英雄視されます。テレビに出演したり、本を書かないかと依頼が来たり。母親のバーバラ・ジュエル(キャシー・ベイツ)に「誇りだ」と言われ、リチャードはとにかく嬉しいです。
人々に注目され、お礼を言われ、敬意を示されるなんて、これまでの人生で経験がありません。
10年ぶりにワトソンに電話をかけます(用件は、執筆の契約についてアドバイスがほしいということでした)。ワトソンも活躍のことはテレビで知っていて、立派だと褒めたたえました。
そのころ、現場に居合わせたにもかかわらず有力な容疑者を見つけられないFBI捜査官のトム・ショウ(ジョン・ハム)は、焦っていました。
そしてなんと”犯人像と高確率でマッチする”という理由だけで、リチャードに疑いの目を向けます。
日ごろから野心家で、なんとしてもスクープを取りたい地元紙の記者キャシー・スクラッグス(オリビア・ワイルド)は「FBIはリチャードが爆弾を仕掛けた可能性を疑っている」と実名入りで書きたてました(これは枕営業で仕入れたネタで、裏付けも取っていません)。
状況は一転しました。多くのメディアがリチャードの自宅を取り囲みます。
FBIは、教材のようなものを作るためにぜひとも協力してほしいと嘘の用事でリチャードを呼び出し、彼を犯人に仕立てるべく、仕掛けてきます。どんなことでも協力したいリチャードですが、これはさすがに何かがおかしい「弁護士に連絡させてほしい」と言い、ワトソンに電話します。
テレビの報道で成り行きを知っていたワトソンは、彼を守ることを決めます。最初は迷いましたが、秘書でのちの奥さまナディア(ニナ・アリアンダ)に「私の国では国家が有罪だという人こそ無罪だ」と説得されました。
自宅から出ることもままならず、盗聴もされ、しだいに世間から孤立していきます。
家宅捜索が入り、あらゆる物を持ち去られます。プライバシーもありません(リチャード曰く趣味や好奇心の範囲ですが、銃などを山ほど持っていて、印象は悪くならざるを得ません)。
ほんの3日間だけの英雄でした。リチャードとワトソンは、どうやって強大な敵と闘うのでしょうか。
リチャードジュエルのラスト結末
ワトソンはリチャードの無実を信じていましたので、激しく怒っています。証拠の一つもないのに、FBIの捜査はなりふり構わずでした。
それに「何も喋るな」と何度注意しても、リチャードの権力に対する意識は変わらず、リチャードに対してもイライラが募ります。「いい奴でいようとするのはもうよせ。」
でもリチャードだって本当は怒っているけれど、うまく表せないのです。
「彼らの人生をめちゃくちゃにしたんだぞ」とキャシーにも食ってかかります(この記者、ここで少し目が覚め、今さらですが真実を探ろうとしてみます)。
バーバラも精神的に参ってきています。しかし母は、息子のために人前に出ます。「息子は多くの人の命を救ったのです。それなのになぜですか。どうか大統領、息子に名誉を取り戻させてください」と涙ながらに訴えました(この記者会見の後ろの方でキャシーが涙ぐんでいました。誰のせい?)。
ウソ発見器でも一点の曇りもないし、リチャードとワトソンはいよいよ反撃に出ます。
FBIに乗り込んで初めて堂々と主張しました。「いったいどんな証拠があるのか」と。今も犯人は爆弾を仕掛けようとしているかもしれないし、今後は二の舞になることを恐れて警備員は爆弾を発見しないだろうと。FBIはもっと重要なするべきことがあるのではないかと。
その後FBIはようやくリチャードを捜査対象から外しましたが、約3カ月くらいの間、容疑者という立場に置かれていたことになります。
6年後、真犯人が逮捕され、ワトソンがそれをリチャードの元に知らせにやってきました。散々な目に遭ったのに、リチャードは地元の警察で、人のために働いていました。
リチャードジュエルの感想
孤独な爆弾魔と人物像が一致する、尊敬を集めたい下心が見える、そんな分析で容疑者にされ、人生を狂わされた一市民の悲劇の実話です。
イーストウッド監督は実話をわかりやすく映画化するのが得意ですね。
リチャードの行いや背景は、自業自得になりかねない部分も多くありました。観ていて、ワトソンのイライラは共感できました。そこもしっかり描かれていました。
枕営業の部分は賛否あるようで、この映画を観ないようにとのボイコット運動もあったそうですね。
わが身に降りかかる可能性はほとんどないと思いますが、SNSで容易に拡散できる現代はもっともっと恐ろしいことになるんでしょうね。